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「物語は、願いだ」

こんばんは、今日はちょっと遅めの投稿です。

えしぇみるが参加した昨日のイベント・コミティアでエモルティア公開に向けた宣伝用フリーペーパーを頒布しました。えしぇみるの描きおろしイラストが掲載されています。手に入れられた方はもちろん、手に入れられなかった方も、エモルティアの公開を楽しみにしていただければ幸いです。

『小説の神様』 相沢沙呼 さん

今日の話題は――初めてではないでしょうか――普通の、文庫小説の話題です。こちらは本屋で見かけて衝動買いした一冊でした。わたしはTwitterで出版社やら本屋やらのアカウントをチェックすることがあります。その時から気にはなっていたのですが、実際に見かけたら即買いでしたね。ちょっとその時弱っていて財布のひもが緩んでいたのもありますが……やはり、小説は向こうから呼びかけてくれることがあると思います。何度か、そうやって手に取って物語と出会ったことがあります。最初にそういった出会いを本屋でしたのは、覚えている限りだと『詩羽のいる街』でした。この話もこのチャレンジ中にしたいですね。

あらすじとしては、地力はあるがパッとしない高校生作家の主人公と、話題性抜群の美少女作家のヒロインがなぜか合作することになる……というもの。

いやいやいや、高校生作家がそうひとつの学校にゴロゴロいてたまるかよ、というツッコミは脇に置いておいて。いやぁ、ジュブナイルですねぇ。自分に悩み、自分を偽り、他人からの評価に苦しみ、もがいて、それでも筆を執らずにいられない青い作家たちの叫び……彼らはまだ若くともやはりすでに”作家”なんですね。自分の作品を愛し、誇りに思う、謗りを受けようとも、書かずにはいられない、そういう生き物。繊細で、だからこそ傷つく。まだ若く柔らかい精神性。悪意にさらされ、こんなことくらい大丈夫だ、これは当然の評価だ、自分の作品はくだらない、そういう風にうそぶいて斜に構えて……自己暗示で思いこませて。でも固く閉ざされた本心では、希望を諦めきれずにいる。すべての、小説には、力があるのだと、信じたい。もう、このあたり、小説を書いたことのあるひとなら、泣いちゃうんじゃないでしょうか。どんなに拙くとも、誰かには届く――そんな夢物語を、信じて。

渾身の、すべてをかけた作品なんて、きっとそんなにない。でも、その時そのとき、できるだけのことを詰め込んで、作品を生み出していく。詰め込むものは、好き、という想いだったり、不安だったり、希望だったり、色々変わっていくのでしょうけど、そういった詰め込んだものを伝えたい。確かにそれは「願い」に似ているのです。

主人公とヒロインは正反対のようで同じ根っこを持っている、という典型的な計算されたキャラクター性の持ち主で、最初というか終始、意見が対立しています。希望を憚ることなく口にするヒロインと、嫌味で卑屈な主人公。一見するとヒロインは日の当たる場所にいる、いわゆる「勝ち組」で、主人公はスポットライトの当たらない「負け組」のように思えるのですが、本心のところではヒロインこそが希望を信じ切ることができずにいた……それでも小説が好きで、信じさせて欲しいからこそ、主人公に会いに行ったんですね、彼女は。彼ならきっと、それができると知っていたから。

書けないということが、どれだけ彼女を苦しめたことか……。賢く、可憐。悪意など、知ってはいても、それはかつて彼女の傍になかったもののはず。一度知ってしまえば、周りからの称賛さえ言葉の裏を探らざるを得ず、しかも頼りの親は作家業に反対している。辛いはずです。それでも彼女が筆を折り切らずに済んだのは、彼女の中で息づく希望があったから。かつて彼女も小説に力をもらったことがあったから。現実でも、そういうひとは少なくないでしょう。それが小説でなく、音楽だという方も、漫画だという方も、それ以外の何かだという方も、いらっしゃるでしょう。なんでもいいんです。一番辛いときに伸ばされる、救いの手、みたいなものがある。今は思い当たらないという方も、いつか巡り合うこともあるでしょう。

ただ、自身を苦しめるものと救うものが同じだったりすることが多々あるのもまた、しかたのないことで……美しさとは業が深い。美しさは時に人を狂わせますからね……。

主人公に関していうなら、性格が卑屈に過ぎてもはや天晴れ。典型的な文学青年ですね。偏見ですけど。偏屈で、とにかく斜に構えてて、まだまだ青い。同時に、彼が立たされている作家という職業の難しさ、出版界の苦しい様子、そういう厳しさの描写を垣間見るに、彼の態度は臆病な青少年ならさもありなんといったところ。防衛本能。傷つくのが怖いんです。それは誰もが当たり前に持っている感情です。ただ、稀に出現する大物はそのあたりどうなんでしょうね。小説だと、たいていのことは怖くないけど、大切なものができたら怖いものができたとか増えたとか、鉄板ですけど。やっぱり失うものがない強さっていうのはありますよね。そういう強さは危うさも孕みますが。でもまぁ、主人公には、隠していても胸のうちには獅子が眠っている気がします。眠れる獅子が起きたら、さてどうなるか。起きるとことまでは描かれませんでしたが、ウォーミングアップくらいは始めましたかね。それとも彼女に触発されて別の何かが出るか……。彼らのその後を想像するのも、ひとつの楽しみ方ですね。

今回も長くなりましたから、このあたりで。

次は、同じく文学少年が主役のライトノベル『文学少女』シリーズの話にしようかな。

 

      参考:相沢沙呼.小説の神様.講談社,2016,383p.

      ISBN:978-4-06-294034-4

 

ISBNで検索をかけるとたいてい一発でその本が出てきます。他のキーワードは必要ありません。特定の本を探す際には、ISBNを控えておくと便利ですよ。奥付、あるいは裏表紙に表記されていることが多いです。

今回はおまけイラストがありますよ! コミティアで頒布したフリーペーパーの元絵です。

カラーで見るとより素敵。

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