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哀しくてたまらないとき、綺麗に笑うひと

こんにちは。

昨日の宣言通り、今日はわたしの青春とも言える小説のお話です。

いやぁ、青いなぁ。若いなぁ。

『文学少女』シリーズ 野村美月 さん (イラスト:竹岡美穂 さん)

もう、ずーっと読んでました。それなりに長いシリーズですし。ちょっとイタイ、ラブコメチックなところもありますが、シリアスシーンの美しさが好きでした。

ヒロインの“文学少女”、遠子先輩の愛らしいこと! 彼女の悲しさ、寂しさ、辛いときこそ美しいという儚げな姿にどうしようもなく魅せられました。彼女の持つ”秘密”を知ってからは、普段の、明るくお茶目で、朗らかでやさしく、影なんて微塵も感じさせない様子がいじらしく、悲しい。それはまさに献身と表すべき姿でした。読めば、このチャーミングな先輩の虜になってしまう、それだけの魅力があるキャラクターです。

対する主人公・心葉(このは)くんは、遠子先輩のひとつ下、高校の後輩にあたります。ひょんなことから彼女の秘密――天野遠子は”本を食べる”ということを知り、問答無用で文芸部に入部させられるところから、彼の時間は動き出します。もう彼はね、うじうじぐだぐだして、じれったく感じることも多いですが、そこはもう文学青年なのでしかたない……。それに、彼もまた愛さずにはいられない少年です。特に本編から外れた、遠子先輩視点の短編集なんて読んでみてご覧なさい。彼の存在が愛しくてたまらなくなります。……この男のどこがいいのか分からない、とバッサリ切られてしまう可能性がある子でもありますが。

シリーズで特に好きなのは『穢れ名の天使』と、『月花を孕く水妖』です。天使には「アンジュ」、水妖には「ウンディーネ」と読みが振られています。うーん、ライトノベルっぽい。でも、やり過ぎでなく、いい感じに収まっているように思います。このあたりの感じ方には個人差がありそうですが。

文学少女シリーズは各巻ごとにひとつ、題材となる文学作品が存在します。穢れ名~はシリーズ4作目で『オペラ座の怪人』を題材にした物語です。珍しく遠子先輩の出番は少な目。受験生ですからね。その代わりに琴吹ななせという美少女がメインヒロインとして登場します。彼女もまたいい子なんですね。なんで彼が好きなんだろう……と悩む程度にはいい子です。作中で心葉本人が言っているように、彼にはもったいない女の子でした。穢れ名では、ななせの親友である少女、水戸夕歌の失踪事件から事は始まり、主人公たちは真実を知ることは必ずしも幸福ではないということを突きつけられる――けれども、ななせは真実を知ることを選んだ。ひたすら親友を案じ、ひたむきなまでに親友を信じた。彼女の真摯さ、ひたむきさ、強さは、心を閉ざしていた主人公にさえ届くほどに真っ直ぐだった。琴吹ななせというキャラクターは決して報われる立場にありません。それでも彼女は、とても立派なヒロインでした。

月花~はシリーズ本編に入ってはいるけれど、異質で、ちょっと番外編のような雰囲気がありますね。舞台が学校ではないからでしょうか。季節は夏、夏休みに起こった事件です。題材は泉鏡花の『夜叉ヶ池』です。シリーズとしては主人公の心葉くんの過去を清算したひとつのピークである『慟哭の巡礼者』の後、シリーズ最終巻となる『神に臨む小説家』への前振りとなる位置にあります。どちらも厳しい展開なので、ちょっと箸休めというか。過去を振り返ってみれば、そこかしこに合図はあったのだ、という心葉くんの気づきと後悔の物語でもあります。しかしまぁ、この月花の口絵の素晴らしいこと! 心葉くんと遠子先輩の暖色系のイラスト、裏返すと麻貴先輩の澄み渡るような青のイラスト。素晴らしい。美しい。もうそれ以外出てこない。わたしはイラストの竹岡美穂さんのファンでもあります。決して特別に巧いわけじゃあないんですけどね、カラーになると魅力がとんでもない。人気のあるイラストレーターさんですから、たぶん絵は見たことがある方が多いのではないでしょうか。あと先ほどは唐突に名前が出ましたが、姫倉麻貴も好きなキャラクター。賢く、強く、けれど自由はない籠の鳥。遠子先輩のちょっと変わった友人です。権力はおそらく登場人物の中で一番あります。困ったときの麻貴先輩。

あとは、主人公を変えて描かれる番外編『”文学少女”見習い』シリーズの最終巻『”文学少女”見習いの卒業』も好きですね。これは夏目漱石の『こころ』を題材にしています。見習いシリーズは全3巻ですが、もう主人公の菜乃ちゃんがあほ可愛くて! 心葉くんも、きっと彼女の底抜けの明るさに何度も救われたことでしょう。彼女は幼馴染で親友の瞳との関係性もいいんです。彼女もまた、菜乃の素直さや明るさに救われてきたひとり。それにしても、菜乃の成長には目を見張るものがあります。

まったく文学作品を読んだことがなかったわたしが、このシリーズを読んで、エミリー・ブロンテの『嵐が丘』、武者小路実篤の『友情』、夏目漱石『こころ』、デュマの『椿姫』、ジッドの『狭き門』などを読破しました。すごい影響力。遠子先輩の愛溢れる解説をみていると、今まで堅物に見えていたあれもこれも、不思議ととっつきやすくなるのです。

興味がある方はぜひ。

天野遠子(森戸あめ:自動彩色さんを使ってみました)
 

   野村美月.”文学少女”と穢れ名の天使.初版,エンターブレイン,2007,318p.

    ISBN:978-4-7577-3506-4

   野村美月.”文学少女”と月花を孕く水妖.初版,エンターブレイン,2008,318p.

    ISBN:978-4-7577-3918-5

   野村美月.”文学少女”見習いの、卒業.初版,エンターブレイン,2010,412p.

    ISBN:978-4-04-726725-1

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