星空が、落ちてきたみたいだ
幸福じゃ、なかったわ。
どうして?
奪ったものは、必ず奪われるからだわ。
――ガートルードとアンジェリカ
こんにちは。
チャレンジも15日目、2月は28日までなので折り返しですね。
ところで、昨日将棋の駒をかたどったチョコ(そういうのがあるんです)をロフトに買いに行ったら売り切れていてとても残念でした。『3月のライオン』効果もあるでしょうけど、羽生竜王も今期の竜王戦で永世七冠とかものすごいやばいし(過去には七冠独占していたこともある)、公民栄誉賞受賞してましたし、ひふみんもTV出てるし、藤井五段も有名になったし、将棋界は今売り込み時ですもんね。わたしは今は観る将ですらないんですけども、興味が出てきたので解説とかを見てみようかなと思っているところです。
さて、今日の話題です。
『星をさがして』 張間ミカ さん (イラスト:ミギー さん)
張間さんは十代でデビューした作家さん。デビュー作は『楽園まで』で、わたしはこちらも拝読済みです。星をさがしてはトクマ・ノベルズEdgeというレーベルから出版されており、このトクマ・ノベルズEdgeは2段組み構成の本です。わたしは2段組みの本ははじめて読んだので非常に驚いた覚えがあります。
この物語を読んだとき、陳腐な表現にはなりますが、この圧倒的な世界、その空気に触れ、わたしは確かに衝撃を受けたのです。文章が流れるようにページを進め、そこに散りばめられた言葉が宝石のようにきらめいて、ため息をつかせる。漂うのは陰のある美しさ。これは楽園までも同様なので、張間さん自身の作風なのだと感じます。そして名台詞が一冊の中に驚くほどバンバン出て来ます。すごい。
主人公の少女・ガートルードは魔女。彼女は両親を幼い頃に亡くし、今は孤児院の子どもたちに空にまつわるものの話を語って聞かせる仕事をしています。ガートルードは星が好きで、いつか自分の、どこの誰にも負けない完璧でうつくしい「星の部屋」を作るのが彼女の夢です。この星の部屋というのはいわゆるプラネタリウムのことで、でも彼女は人工の光なんかで夜空のうつくしさを表現できるはずもないと、そんなものでは到底足りないのだと力説します。彼女が求めるのは、いつでも見ることのできる本物の夜と星――かつて静寂なる夜の神ノクスが作ったとされる星の部屋なのです。
そこでガートルードは夜の神ノクスを召喚し、彼に協力を依頼します。ちなみにノクスは黒猫の姿で表現されていて、とても可愛らしい印象です。彼とともにガートルードは星の部屋を作るため奔走を始めますが、彼女が置いてきた過去はどこまでも彼女を追いかけてくる……。
魔女のはじまりを記す「エリナ・エンの手記」、これがまた海外の児童文学を彷彿とさせる好きな演出です。魔女とは、最も賢い12の妖精、彼らにそれぞれ魔術を授けられた12の娘、その血族のことを指します。
アリサとレミとヘルガとリジー、エミリとマージとアリスとノア、
ユリア、プルミエール、サン、そして最後が暗がりのエル。
――エリナ・エンの手記 第一巻 魔女の章
12の娘の中で唯一、妖精の血を入れた最も賢きエルの血族。彼らは賢く、よこしまで、残虐な妖精の性質を受け継ぐ。なぜ、エルだけが「暗がりのエル」と呼ばれるのか。そこにこの物語の影となる部分が大きくかかわってくるのです。もう、主人公の少女・ガートルードを取り巻く運命が、彼女の苦悩が、重くて。そして、だからこそ、彼女が守ろうとする理性が限りなく尊く思える。
この物語における魔術は、この妖精に知恵を授けられた12の娘の血族「魔女」のみが使えるものです。それはつまり古の大妖精の力です。魔術は「ウタ」と呼ばれる、ヒトの言葉とは異なる不可思議な音によって発現します。このウタの表現も素晴らしい。聞いてみたい。この魔術はうつくしい。目の前で見れたなら、絶対に一生忘れられないものになる。そういう確信をもたせるだけの景色が、文章の向こうに見えました。合間に挟まれるミギーさんの挿絵も素晴らしくて。でもやはりイラストはカラーですね。表紙が一等素敵です。
決して許されない、罪があります。ガートルードも、彼も、それを分かっています。それでも彼は最期に行動しました。彼の贖罪は、独り善がりで、傲慢で、でもひどくやさしいものでした。彼らの命を燃やすような生き様がどうしようもなく美しい。そんな物語の最後は、寂しげでありながら、どこか清々しく澄み渡り、明るい未来を予感させるものでした。
ご興味が出ましたら、ぜひご一読ください。
出典:張間ミカ.星をさがして.初版,徳間書店,2010,371p.
ISBN:978-4-19-850856-2
灰色の文字は引用あるいは要約です。
ブログにするにあたり、途中地の文を抜かしている部分があります。