March comes in like a ……
こんにちは。今月もあと10日しかないんですねぇ。
さて今日は、このチャレンジのサブリミナル効果(そんなに取り上げてない)で皆さまにも馴染みが出てきただろう「将棋」を職業とする青年の物語。
ファンの方はタイトルで今日の感想が何か、分かってしまいました?
『3月のライオン』 羽海野チカ さん
ご存知の方も多いはず。『ハチミツとクローバー』の作者さんに、実写映画は主演に神木隆之介という有名かつ実力のある俳優さんを起用、アニメを製作しているのはシャフトさん、しかもすでに二期目……これだけされている原作がおもしろくないわけがない。 わたしはコミックス派なので13巻までの話になります。
主人公は深い孤独と抱え、哀しみを昇華する間もないまま生きてきた少年・桐山零。家族を交通事故で亡くした後に内弟子として引き取ってくれた幸田の家を壊してしまった(物理ではない)ことを深く悔いた彼は中学生でプロになった後、家を出て、東京の下町で一人暮らしを始めています。川が見える彼のアパートには極端なまでに物がなく、ガランとした殺風景な部屋。これが非常に印象的な1話は、言葉数こそ少ないですが、とても素晴らしいと思います。彼の持つ哀しさとか、抱える孤独とか、怒りとか、あとは周りの人との関係がまだ希薄であることも読み手に印象付けてくれます。羽海野さんは、絵で伝えるのが非常に巧みな漫画家さんですよね……。入っている文章も絵の邪魔をするものでなく、まず、何よりも最初に「絵」でダイレクトに伝わってくるんです。これってすごいことです。表現が難しい曖昧な表情や空気感だって羽海野さんにかかれば、もうそこに存在している……文章なら十も二十も言葉を尽くしたって、表現しきれないものが。
絵だけじゃない、ストーリーも熱いんです。棋士の命を振り絞るかのような熱戦には思わず拳を握りしめ、主人公の幼少期の孤独に涙ぐみ、日常にほっこり温まり、理不尽に怒りを見せ、胸をときめかせる――いやはや話題に事欠きません。
好きなキャラクターもたくさんいるんですよ。まず主人公の桐山くん、先輩棋士の島田開八段、宗谷冬司名人、そして幸田香子、この四人が特別好きです。でも他のキャラクターもみんなチャーミングで素敵なんです。野口先輩とか最高ですね! あんな先輩いてほしかった! あとは滑川さん、スミスさん、横溝さんに(一砂くんはちょっと暑苦しい☆)忘れちゃいけない川本家! あぁ、でも「好き」じゃなくてファン度合いなら一番は島田さんですかね。努力の人・島田開。胃が弱い、苦労性でいいひとなんですよ。でもいいひとなだけじゃ終わらないのが島田さんの魅力です。やはり彼もまた将棋の鬼のひとりということなのでしょう。
好きなキャラクターの話をしたので、今度は好きなエピソードについて。5巻のchapter51~52の「てんとう虫の木」、7巻のchapter65「川景色」と8巻,、13巻のchapter139「目の前に横たわるもの」。5巻はヒロインひなちゃんこと川本ひなたの学校でのいじめ問題が発覚する場面で、桐山零の過去への救いの手が差し伸べられる場面でもあります。名場面。ひなたというキャラクターの強さが、眩いばかりで、彼女の存在が桐山くんの救いになってくれてよかった。本当によかった。「川景色」はひなちゃん関連がいじめの結構キツい話からの流れの中で、ここだけ清いんです。素晴らしい。モノローグがときめき指数の限界越えに挑戦しているのかと思います。8巻は宗谷名人と桐山くんが雨の中彷徨って、柳原棋匠がかっこいいんです。そして最後の「目の前に横たわるもの」ですが、もう、疑似的に大切な人を失う経験をする香子さんの目が……羽海野先生の画力とモノローグが本領発揮している回です。
最後に。断っておきたいのですが、これはあくまで「桐山零」という少年の物語です。それでも彼が棋士である以上、どうしようもなく切り離せないくらい将棋とは彼そのものであるから、将棋を表現することが彼の人生の一場面を描くことに必要なんです。それで主人公の将棋が強くなることはあっても、たぶん「棋士桐山零の成長」の物語ではないと思うのです。少しずつ、彼を形作るものは増えていって、将棋以外の描写だって増えていきます。彼の中に将棋以外の色々なものが積もっていく。それはきっと素晴らしく素敵なことです。彼がひとりじゃなくなったってことです。将棋しかなかった少年が様々なものに触れて、自分の意思で将棋に戻ってくる――そういう物語だと、わたしは思っています。他に選びようがなかったから選んだ将棋は彼の中で「好き」と一口で言えるものではありませんが、「選ぶしかなかったけれど、それでよかった」と思えるようになってほしいし、たぶんもうなっているのだと思います。ここまで来るのに非常に苦しい思いをしてきたけれども、いつの間にかその答えは手中にあるんですね。彼はもう棋士であることを止めようとはしないし、棋士である自分を否定することもないのでしょう。
今回はこれにて終了。
ちなみに次回は将棋の話です。また明日!