きっとまた、世界が「彼ら」に恋をする
深夜に失礼。
ブログではご無沙汰していました。森戸です。
今回は、『アイドリッシュセブン』のTRIGGERについてつらつら書きたいと思います。
メインは本編3~4部のことになります。
前々から書きたいとは思っていたのですが、ちょうどアニメ『アイドリッシュセブン Third BEAT!』でTRIGGERがピンチに陥っているところなので、この機会に筆を執ることにしました。まぁ、わたしはまだ見れてないんですけど!!! アニメで動く3部とか怖すぎる。
ともあれ、そんなわけで。
お辛い方はお読みになるのを避けていただいた方がいいかもしれません。
まず表明しておきたいのが、わたしのスタンスです。
わたしはMEZZO”ファン(※そーちゃんと居る時の環が一番好きという感情を単純化してそう表現しています)寄りのコンテンツ箱推しですが、一番最初に好きだなと感じたのはTRIGGERの九条天でした。
あの精神性、気高さ、誇り。素晴らしいですよね。
そして八乙女楽も大好きです。おもしろくて、でも最高にカッコよくて、まだ青い。
十龍之介は、懐のデカい男ですよね。特別に好きだとかはないのですが、賛否両論ある3部で、わたしが一番見直したのは実は龍之介だったりします。
わたしは、新参ですが、アイドリッシュセブンが大好きです。
そしてわたしは他人の感想を読むのも大好きです。
なので、わたしもたくさんの感想のひとつとして、自分の頭の中を整理するために、言語化していきたいと思います。
それでもよろしければ、お付き合いくださいませ。
TRIGGERというアイドル
醒めない夢。
その一瞬、一瞬に、恋に落ちる。
完璧主義で、プロフェッショナルで、漢気溢れる天然ボケ。
そんな3人から成る新進気鋭の男性アイドル、TRIGGER。
本編のメイングループIDOLiSH7のライバルグループとして最序盤から登場します。
IDOLiSH7が消えない虹なら、TRIGGERは醒めない夢だと表される。
なんて秀逸なキャッチコピーなんでしょう。
どちらも「存在しないことを誰もが知っていながら願うこと」でありながら、両グループのカラーもしっかり出ていて素晴らしいですね。
大手事務所におせっかいなほど(手中の珠のごとく)守られ順風満帆だったTRIGGERですが、本編第3部で芸能界の古参大手ツクモプロダクションの姑息で卑劣な罠により、その立場を奪われます。
TRIGGERの凋落はなぜ起きたのか?
ツクモの新社長である月雲了が「僕を裏切ったアイドルを許さないからアイドル業界は全部壊す」と決め、IDOLiSH7・TRIGGER・Re:valeの3グループのうちどれから崩そうか考えた時、ツクモの抱える新アイドルグループ「ŹOOĻ」による多数決で選ばれたから……というのがシナリオ上の理由になります。
これをメタ的に見るとなると、まず考えたのが「もしTRIGGER以外の2グループが選ばれていたらどうなっていたか?」なのですが、正直、他2グループからでは崩せる気がしませんでした。
IDOLiSH7はあらゆる逆境を乗り越えてきた”丈夫な”グループですし、Re:valeはインディーズから這い上がってきた経緯もあってガッツのあるメンバーです。どちらも蹴落とされようが不死鳥のように戻ってくるビジョンしか浮かびません。どこかで泥んこ遊びでもしてきたの?
つまりŹOOĻのメンバーの意思によって選ばれたというより、むしろ、ここで選ばれるのは「TRIGGERしかいなかった」と言うべきでしょう。
そして彼らを蹴落とすために用意された罠のうち、初めてまともに機能したのが、龍之介にしかけられたハニートラップでした。
結構、このあたりも無理くりというか、ギャグテイストなんですよね。内容激重ですけど。
お粗末な仕掛けなのに無理を通せば道理が引っ込むってなもので、ツクモの圧力によってまかり通ってしまうんですね。もうそこまで出来るなら仕掛けなくても0から捏造できそうなのに、仕掛けはするんだから妙に真面目だよなぁ。写真だけは欲しいってことなんでしょうが。
まぁ、その辺りはちょっと横に置いておいて。
リアルのアイドルには明るくないので的外れかもしれないのですが……恋愛がらみのスキャンダルって(言っちゃ難ですが)ありがちじゃないですか?
起こした本人が多少の期間干されることがあっても、ほとぼりが冷めれば戻ってくるような、そういう「ありふれた」事案なのではないか、というのが個人的な感覚としてあります。
ならば、何故、TRIGGERは事務所を退所するまで至らなければならなかったのか?
もちろん、ツクモの圧力や根回し、報道の偏向は影響したでしょう。
でもそれ以上に、わたしは、TRIGGERというグループの在り方が、強く、不利に働いた結果ではないかと思うのです。
世界が恋した偶像
キーワードは「恋」
それもセクシーで、ラグジュアリーで、とびきり、一等上質な恋。
それこそ、まるで夢のような。
あるはずがないと、知っている――
TRIGGERは他グループよりも「恋」という概念が強いグループでした。
度々、口にされる「世界がTRIGGERに恋をする」という言葉がすべてだと思います。
本当にこのコピーは秀逸で、まさにその通りのグループなんです。
だからこそ、恋愛スキャンダルは、それだけの打撃になり得るものに「なってしまった」。
たとえば、「セクシー&ラグジュアリー」ならŹOOĻの御堂虎於もそういった路線で売り出していますが、もし彼に同じスキャンダルがあっても何の打撃にもならないでしょう。
なぜなら、彼らは”そういう”グループだから。
スキャンダラスなこと”くらい”、当然、やっているだろう……なんて共通認識が、あってもおかしくありません。そういうスリリングでダーティーなところを魅力とするグループだから。
だけれど、TRIGGERは違う。
TRIGGERは完璧な恋人、”世界の”恋人なんです。
その恋は誰か一人の手中に収まるものではあってはならず、暗黙のうちに「みんなのもの」であることを是とされる。まるで美術館のディスプレイに飾られた宝石のように。
世界がTRIGGERに恋をするのよ――
記憶にあるのはTRIGGERマネージャーの姉鷺さんのセリフなのですが、引用元が見つけ出せず……代わりに探してみて見つけたのは3部12章5話「醒めない夢を一緒に」における楽のセリフで、「あの夜、俺たちはTRIGGERに恋をした」という一言です。
つまり、ここで言う「TRIGGER」は、特定生身の個人ではなく、概念なんです。
それは概念「TRIGGER」を見事体現する3人に深く触れることで、より鮮やかに理解される性質のものです。だからアイナナ世界のTRIGGERファンは、特に明言されるでもないのに、彼ら個人がどういった人間かわかっている。わかっているから、信じてくれる。
そのことは3部14章4話「歌い続ける覚悟」で、はっきり描かれます。
ファンと世間
3部14章4話「歌い続ける覚悟」、言うまでもない、名場面ですね。
今まで天にとってファンとは、概念として「弟である陸」とほぼ同一だったと思われます。
守らなければならないもの。
苦しんではならないもの。
悲しませてはならないもの。
だけれど、あの場面においてファンの強さの一端に触れた天は少しずつ変わっていきます。
ファンは自分たちのことをわかってくれている。真実、まごころをもって「TRIGGER」を愛してくれている。そのことがどんなにか心強く、嬉しいことか。こんな誇らしく素晴らしいことが他にあるかと、天は涙を流したのです。そして同時に、何事にも揺らがない強固な絆を得られるような仕事をしてきたことが誇らしくなったのだと。
天の涙のインパクトにすべて持っていかれてしまいがちですが、ここはシナリオとして「TRIGGERと、そのファンの心の交感」が描かれた場面で、みんなの気持ちがひとつに溶け合ったような感覚があります。
事実、TRIGGERの3人はファンからの信頼を受け取っているし、ファンは3人からの感謝と「必ず、また」の約束をもらいました。
だから、なんとなく雰囲気で完全に”分かり合った”気になれてしまうんですよね……
(この場面で龍之介が「心配かけてごめんね……。ずっと、みんなに伝えたかった」と言っていますし、もしや、これで全ファンと分かり合った気になってしまっている……?という懸念が)
ともあれ、この場面で「ファン」という概念の継続的な方針として「わたしたちはTRIGGERを知っている。だから彼らを信じてる」が示されたのだと解釈します。
そしてそれに対するTRIGGERのアンサーは「これからの俺たちを見ていてくれ」なんじゃないかな、と。
もともと漢気が迸る人たちなので、弁明とか言い訳めいたことはしたくない。から、代わりに信頼には行動で応える。
でも、リアルに考えれば、ファンは当然不安ですよね。本人の言葉で聞きたいですよね。たとえ世間がその言葉を真実と受け取らなくとも、本人の口から聞きたいと。
(「言葉が欲しい女」と「行動で示す男」のテンプレかな?)
ただ、シナリオ面だけのことを言えば、作中ファンは「味方」で、「敵」は世間です。
そしてこの「敵」は倒すことができません。
ひと言コメントをしたって「そんなの嘘か本当か分からない」と言われて終わり。努力して戻って来たってアイドルファン以外からは「あぁ、あのスキャンダルで干された人」という認識です。
これを覆すには、地道な努力を積み重ねていくしかないと、わたしは思います。
コツコツやっていった先で「こんな真面目な人があんなスキャンダル本当に起こすかな?」と群衆から”自発的に”思わせなければなりません。自発的にというのがミソですね。困難ですが、こちらは6部までのシナリオで徐々に達成されつつあるのではないかと思われます。
(もちろん全員にそう思ってもらうのは無理な話ですし、どれだけやっても「あぁ、あのスキャンダルの」「何やっても信用できないよね」の反応だって当然ある。でも、「そうあってくれ」という願いが物語であるなら、アイドリッシュセブンというコンテンツは、間違いなく願いが紡ぐ物語であるとも思うのです)
ただ、「歌い続ける覚悟」であった奇跡のような交感に甘えて言葉にするのが疎かになっている感があるのは否めないような……”分かり合ったような気になっている”から、いつまで経っても言葉にしなきゃならないなんて気づかない。
そういうところは姉鷺さんがフォローすべきなんだけど、TRIGGERに近すぎて思い至らないのでは。真面目な彼らを直に知っている分、「どうしてあの子たちがこんな目に合わなきゃならないの」と悔しい思いをしてきた分、自分の気持ちとファンの気持ちを同一視している可能性があります。「歌い続ける覚悟」の場面にも居たからなおさら。
いつもだったら一番にファンのことを考える天でさえ、そのあたり思い至らないのは、やはり事態が急展開に次ぐ急展開だったからですかね。動揺しているという表れなのかも。その後はとにかく必死で、がむしゃらに一生懸命で。そういう時って少し視野が狭くなりがちですから。
こういうの、小鳥遊社長が得意なんだけど、どっかでコッソリ言ってくれないかな。
(でも、もしかしたら描かれていないだけで小さいハコのライブとかで直接ファンには色々伝えてるのかも……? 物語上、”わたしたち”は、あくまで”マネージャー”ですし)
あるいは。
一発逆転するなら、地元に戻った花巻すみれが心を入れ替えて自発的に突発で真実を公表するしかないですね。事前に相談したら止められてしまうので。
こちらのパターンはまだ目があるような気もします。誰もが忘れたころに。
3部が描いたもの
そしてここで浮かび上がる疑問は「そうまでして描きたかったものは何か?」ということなのですが、わたしはこれを「理不尽に抗う人間の姿」と「すべてを奪われてなお失われない輝き」だと思いました。
ŹOOĻの狗丸トウマは、かつてNO_MADという別のアイドルグループに所属しており、自分たちの実力を信じていた彼は、プロモーション力によってNO_MADを蹴散らし成功を掴んだ(と思っている)TRIGGERを目の敵にしています。けれど、ツクモという圧倒的な力に頼り、理不尽の限りを尽くして居場所や成功を奪っても、彼らの輝きは失われませんでした。
彼らは台座に飾られたイミテーションではなく、それ自身に価値がある宝石だったからです。
ディスプレイから放り出されても、地に落ち土がついても、宝石の価値は変わらない。その価値は彼らが彼らである限り、誰にも奪うことはできないものです。
ツクモは「彼ら」から何ひとつ奪うことなどできなかったけれど、八乙女事務所が丹精込めて育てた「TRIGGER」は違います。価値のある宝石をより映えるように敷き布を選び、箱を用意し、光を当て、一点の瑕疵もない完璧なブランディングをTRIGGERは受けていました。
セクシーで、ワイルドで、高級感のある、非日常的な――夢のような恋。
TRIGGERの「恋」は、子どもの癇癪じみた理不尽で奪っていいものではなかった。わたしは、あった方がいい不幸なんてあるわけがないし、知らなくていいなら知らないままでいた方がいいことなんていくらでもあると思っているからです。
でも、どうしようもなく、彼らの姿は美しかった。
畏怖を抱かせるほど、憧憬の対象になるほど、目が離せなくなるほど、美しかったんです。
美しさとは正しさです。時に暴力的なまでの正義になり得るものです。
わたしにとって3部は、彼らのための物語でした。
最後に
ところで、6部更新で久々に「TRIGGERらしい」楽曲がくるのではとワクワクしているのですが、どうですかね。まげちょんさん、教えてくださいよ。ちょっとでいいから。
事務所を退所してから楽曲の雰囲気が変わった……ってのは、まぁ前から言われていて、そうだなぁとは感じてもいましたが、実は当然のことだとも思っていたんですよね。
何度も言うようにTRIGGERって「セクシー&ワイルド」で、曲もそういうのが多い。
けど、恋愛スキャンダルで干されたアイドルがその路線は避けるべきでしょう。印象操作の一環として曲調に変化を与えるのはアリだと思いますし、似た曲調を避けることで悪い記憶を不用意に思い出させないのも重要です。
でも寂しく思うのも、またファン心理……
そこで、ですよ。
そこでレオパみたいなザ・TRIGGERみたいな曲がきたら?
満を持して「TRIGGER」が帰ってきた……!
ぜっっったい全フロアが沸くでしょ。間違いなく号泣もの。
TRIGGER、TRIGGER、TRIGGER……!
鳴り止まぬTRIGGERコール、アンコールに次ぐアンコール。もうね、見えました。完全に見えました。
だって、わたしたちは知っている。
きっとまた、世界中が、一瞬、一瞬、新しいTRIGGERに恋をするって。
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